スピン流のゆらぎを初めて検出

ショット雑音とは

1918年、ショットキーは真空管を流れる電流に注目し、その電流ゆらぎ(雑音)が素電荷と電流の平均値に比例するという普遍的な性質を持つと指摘しました。このゆらぎは真空管の陰極からランダムに放出される電子の分配過程と電荷の離散性に起因した現象で、ショット雑音と呼ばれています。ショットとは「粒」のことで、電荷の離散性を端的に表しています。
ところで、電子は電荷だけでなくスピンという自由度も持つため、スピンの離散性も電流のゆらぎに何らかの影響を与えるのではないかと考えるのは自然な発想です。しかし、スピンに起因したショット雑音については理論的な提案があったものの、実験的な検証は行われてきませんでした。私たちはトンネル接合にスピン流を印加し、それに伴うショット雑音(スピンショット雑音)の検出に成功しました。

スピン流と電流を独立に制御

スピン流は電流に替わる新たな物理量として注目されており、近年、その生成・検出手法が盛んに研究されています。本研究では、強磁性半導体(Ga,Mn)Asと非磁性半導体GaAsからなるトンネル接合にスピン流を印加し、電流ゆらぎを測定しました。さらに、概念的に示すように、トンネル接合に流れるスピン流と電流を独立に制御することで、ショット雑音に含まれる電流とスピン流の寄与を分離して評価しました。その結果、スピン流の絶対値が求まると同時に、ショット雑音とスピン流の比例関係が実証されました。この結果はトンネル過程において電荷とスピンが一体となってトンネルしていることの直接的な帰結です。

ショット雑音の概念図:(左図)トンネル接合において電子が散乱されショット雑音が発生している様子。この図は1918年のショットキーの理論に基づく古典的なショット雑音の発生を示している。(右図)正味の電流がなく、スピン流だけが存在する場合にもショット雑音は発生する。

また、本研究では高精度な電流ゆらぎ測定技術を駆使して、スピン流の生成に伴う電子系の温度上昇を実際に測定することに成功しました。このようなスピン流の非平衡度合いに関する研究はこれまで進んでいませんでした。今後、本検出手法がスピン流の非平衡状態の研究を発展させていくと期待されます。

新しいプローブとしてのスピンショット雑音

ショット雑音測定は、これまでにも電子デバイスや人工量子系(メゾスコピック系)の物理の発展に大きく貢献してきました。本研究で実証されたスピンショット雑音も同様に、スピン軌道相互作用や不純物によるスピン散乱、伝導電子と局在スピン間のスピンモーメントの輸送(スピントランスファー効果等)などのスピンに依存した伝導現象を解明する新たな手法になると期待されます。

→ 本成果は、2015年1月7日にPhysical Review Letters誌のオンライン速報版に発表され、Editors' Suggestion (編集部による注目論文)に選出されました。論文はこちら:Arakawa et al.,Phys. Rev. Lett. 114, 016601 (2015)

※本成果は、東北大学 大学院工学研究科 知能デバイス材料学専攻 新田研究室ドイツ・レーゲンスブルグ大学Dieter Weiss研究室京都大学 化学研究所 小野研究室との共同研究の成果です。

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S) (No. 26220711)、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ゆらぎと構造」(No.25103003)、日本学術振興会 科学研究費補助金 スタートアップ支援 (No. 25887037)、村田学術振興財団、the German and Japanese Joint Research Program、the German Science Foundation (DFG) via SFB 689、および京都大学化学研究所の共同利用・共同研究の補助を受けて行われました。