シリコンの非平衡磁気抵抗効果

磁気抵抗効果とは

磁気抵抗効果とは物質の電気抵抗が磁場中で変化する現象のことです。イメージその研究は100年以上もの長い歴史を持つだけでなく、ハードディスクの読み取り装置や磁気センサーなど、現代の高度情報化社会を支える基幹技術に直結しているため、工学的にも極めて重要です。例えば、金属人工格子における巨大磁気抵抗効果の発見(1988年)はハードディスクの革新的な向上に貢献し、2007年のノーベル物理学賞に輝いています。しかしながら、シリコンに代表されるような通常の半導体において磁気抵抗効果がほとんど起きないことは、常識でした。

空間電荷効果による磁気抵抗効果

私たちは、シリコンに強い電場を印加した時に生じる空間電荷効果に注目しました。空間電荷効果とは、半導体のような自由に動ける電子が少ない物質に大量の電子が注入された場合、内部に一様でない電場が生じ、電子が互いにクーロン斥力を及ぼしあって伝導するようになる非平衡現象のことを指します。私たちは、このような状況下においては、シリコンの電気抵抗が磁場によって大きく増大することを発見しました。例えば、磁場3テスラにおけるシリコンの抵抗は、磁場が無い状態に比べて、25ケルビンにおいて約100倍、室温においても約10倍以上になります。さらに、この現象は、空間電荷効果によって素子中の電子濃度と電場が不均一なゆらぎを持つことにより、磁場によるローレンツ力が電子の軌道に大きな影響を与えるためであることも明らかになりました。このことはまた、今回発見された「空間電荷効果によって誘起される巨大磁気抵抗効果」が、高純度の半導体において普遍的に生じる可能性を意味しています。

シリコンは、現代の半導体産業の中核を担う物質であり、過去50年以上にもわたって最もよく研究されてきた物質の一つですが、このような巨大な磁気抵抗効果は本研究によって初めて明らかとなったものです。特に、室温においてもこの効果が顕著に生じることは、半導体の主役であるシリコンに注目すべき新機能が付与されたものと言えます。

→ 論文はこちら:Delmo et al. Nature 457, 1112 (2009).